医療の進歩により、病気をもって生まれた赤ちゃんや、生涯にわたるフォローが必要な病気をもつお子さん、あるいは子どもの頃に治療を受けて一度は病気が落ち着いたものの、加齢に伴い合併症が生じる可能性のあるお子さんたちが、成長して成人期を迎えるようになりました。
そうした子どもたちが、大人になってからも身体的・精神的・社会的に豊かで幸せな生活を送ることができるよう支援する取り組みが、「移行期医療支援」です。
移行期医療支援には、大きく分けて「医療体制の整備」と「自立(自律)支援」という二つの柱があります。
小児科で治療を受けてきた患者さんが成人期を迎えると、元の病気に加えて、加齢による変化や生活習慣病といった成人特有の健康課題が加わってきます。女性の場合には、妊娠・出産といったライフイベントを経験する方もおられます。こうした際には、内科の専門診療科や産婦人科など、成人医療の診療体制が必要になります。
一方で、小児期発症の慢性疾患には、先天性の病気が多く含まれており、健常者とは異なる身体の状態のまま成人期を迎える方も少なくありません。これらは成人診療科にとっては稀な病気であり、理解や対応が難しい場合もあります。そのため、患者さんが必要とする適切な診療を、年齢を問わず切れ目なく受けられるよう、小児科と成人診療科の間での連携体制を構築することが重要です。また、医療だけでなく、福祉を含めた包括的な支援体制を整えることも必要不可欠です。
また、「こどもが大人になる」ということは、身体の成長にとどまらず、保護者に委ねていた意思決定を、自分自身で行うようになることも意味します。病気の治療においても、小児期には保護者が判断していたことを、成人期には本人が主体的に判断し行動することが求められます。そのためには、自分の病気についてよく理解し、健康を保つために必要な生活管理、服薬、ケアを自ら実践できるようになること――すなわち「自立(自律)」が大切です。その自立を促す取り組みが「自立(自律)支援」です。
一方で、病気や障害の状況によっては、自立(自律)が難しい患者さんもおられます。そのような方々が、成人期になっても社会の中で孤立することなく、医療や福祉を含む多方面からの継続的な支援を受けられる体制づくりも、私たちの大きな課題です。
当センターでは、静岡県内において移行期医療支援が必要な患者さんやご家族、そして支援に関わる関係者の皆さまに向けて、円滑な移行期医療支援体制の構築と提供を進めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
令和7年4月吉日
静岡県移行期医療支援センター センター長
静岡県立こども病院 循環器科 医長
満下 紀恵